「そこに何も無い」というのが一番よい世界に私が居る
時に全てが分からなくなる。「なにもない」ということだけが 最も成立してい
るような気がする。
我。 ひたすら私を追求し追求し、いつか、私から逃れたい。しかし徹すれば徹
するほど、やりきれなくなる。だから 「こだわりを持って こだわらない」必要
があると思った。それは確かに次の餌を与えてくれた。しかし、こだわらないの
と同時に、やはりやりたいことを持ってしまっているのです。そこには我があり
、追求があり、苦痛がある。
ふと気付く。私の思っていることは、宇宙に喧嘩を売っているのと同じだ。
美味であろうが珍味であろうが、それを食うのは人間だけである。所詮、私の作
るものも、嫌うものも、愛するものも、可笑しいものも、全て自らの影ではない
か。何をしているのだ?必死に命を懸けて、必死に変化して、必死に鏡と向き合
って、何をしているのだ? 結局、私であることと私でないことは同じであろうか
?
ならばいっそのこと認めてやろう。どうあがこうが、私は宇宙からぶら下がった
一匹の人間であると。右へ歩いても、庭の塀からジャンプしても、私の脳髄は宇
宙に繋がっている。あれ?この方が自由ではないか。可笑しな話だ。
何にせよ、「そこに何も無い」というのが一番よい世界に私が居る。
2008.12.11
★消えろ、消えろ、つかのまの燭灯、人生は歩いている影にすぎぬ。 ウィリアム
・シェークスピア「マクベス」
★この世は一つの劇場にすぎぬ。人間のなすところは一場の演劇なり。 クリソス
トムス
★うつせみの世は夢にすぎず、死とあらがいうるものはなし。 フランソワ・ヴ
ィヨン「遺言詩集」
★人間わずか五十年、化転のうちにくらぶれば、夢幻の如くなり。 織田信長
★わたしは満足を求めてあらゆる詩を読んだが満足はえられなかった。わたしが
欲したのは精神の食事であったのに、わたしが蒐集したのは精神のボンボンやエ
クレアだった。詩をあきらめたわたしは、空想の食事を追って散文をあさり、い
たるところに卑少な名作を見つけ、それから、人類よりも偉大となるべく誠実に
努力したごく少数の人びとを見つけた。わたしの空腹を満たすものは、かれらの
悪戦苦闘だけだ。 T・E・ロレンス「E・ガーネットへの書簡」
寺山修司 『ポケットに名言を』より