世界は〈チーズ〉でできていた

この写真の中に〈チーズ〉が写っているのが、お分かりになるだろうか?
これは家の水道管の写真なのだが...どうやらここに〈チーズ〉があるらしいのだ。
この家に住み始める時、水道管工事をしたのだが、その際に水道屋とガス屋の立ち会いの元、まず現存の水道管がどうなっているのか?どこを取り替える必要があるか?などの下見&打ち合わせをした。 その時である。

水道「これがこういって...ここが〈チーズ〉になって、それから...」
ガス『この管は給湯機からか?あ、ここが〈チーズ〉だなぁ...』
水道「で、ここも〈チーズ〉」
ガス『これはなんや?....お、〈チーズ〉か。』

その水道屋とガス屋のやり取りを後ろからただただ眺めていた僕は必死にその暗号を読み解こうと苦心していた。この人たちが、もの凄く当たり前のように話している〈チーズ〉とは何なのか...、それは寿司屋で「おあいそ」と言えば「会計」されるのと同じくらいの風習であるように思われる。だから、それを尋ねることができなかった。
彼らが帰ったあと、僕は一人その場に残り、彼らが指摘していた幾つもの〈チーズ〉を眺め、それらの共通点を探していた。どうやら...どれも《いって、かえっている形状》、つまりU字状のものを〈チーズ〉と呼んでいるようだった。それに気づいた瞬間から、僕の世界は一変した。

これも〈チーズ〉だ。

これも。

これも。

ここにも。

これも。

〈チーズ〉だらけだ。

これも〈チーズ〉かもしれない。

もはやこれも〈チーズ〉に見えてきた。

知らなかった。〈チーズ〉という観点を手に入れた今ようやく、世界は〈チーズ〉でできていたという事実を発見し たような気がした。今まで目にも留まらなかった物に〈チーズ〉を見た。物の見方が変わるとはこういう事なのだろう。


...それから丸二年が経ったつい先日。
僕は自作パイプオルガンの新しい実験に必要な部品を探すために、幾つものホームセンターをはしごし、配管コ ーナーの膨大な商品をしらみ潰しに調べたりしていた。その時、ふいに目に飛び込んできたのは【チーズ管】という150円の商品であった。
僕はパニックした。この目の前にある【チーズ管】という商品から解釈できる〈チーズ〉の世界と、この二年間の〈チーズ〉の世界とのズレ!相違!にパニックした。
...ゆっくりと150円の【チーズ管】を棚に戻しながら、世界には知らない方が豊かに過ごせる事もあるのだという...そういう事実を知った。

2013.2.8

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