石並べ
香川県でサヌカイトという石をたくさん拾ってきまして、それを磨いて...泥を落とし、庭に並べました。形は自然のままなので、大きいのから長細いのも、三角のもあります。色んな形の石が一列に並んでいる様子は実に可愛いもので、一つ一つに名前を付けたくなってしまうほどです。
十個以上ありますから、お気に入りのもあれば、正直いまいちのもあります。ですが、差別はよくありませんし、ましてやその事を石たちに知られてもいけません。この石たちは硬度としては水晶より硬い石なのですが、とても割れやすいのです。その上、他の種類の石たちよりも勘の鋭いところがありますので、注意しなくてはこちらの気持ちや考えをいつの間にか読みとってしまい、もしかしたら傷付いて割れてしまうかもしれません。そうなるのはかなしいことですから、私は並べる順番にも大変気をつかいます。そのおかげで彼らはいつもトンっとしたその冷静な様子を、こちらに振る舞うことができているのだ...と、私は密かに誇りを感じていたのであります。
ある日のこと。
朝起きて庭に出ましたら、いつもと何か様子が違うようでした。が、その違和感が一体なんなのか...注意深く観察してもさっぱり判りません。石たちはいつもの順番でいつも通りの飾らない表情でそこに在りますし、光の調子か私の調子か...ともかく気のせいだと思う他ありませんでした。
次の朝。
庭に出ましたら、すぐに違和感を覚えました。が、これはただちに判明いたしました。猫のやつが端っこの石を一つ自分の寝床へ持っていって遊んでおったのです。これこれ...っと一喝して、元の位置へ石を戻したのであります。
が、そこで気が付きました。
石たちの順番が何か府におちないのであります。いえ、順番はいつも通りなのですが...それが何か気持ち悪いのです。昨日感じた違和感もこれだったのでしょうか。石たちの様子をもう一度ゆっくり観察します。
やはりおかしい...。この順番ではいけない。それだけははっきりと判るのですが、ならばどう並べたらよいのか...いくら想像力を振り絞っても見えてこないのであります。ただ感じられることは...、今のままではどうも石が一つ多いような気がしてしまうということ。ですが、方法はあるはずです。一つも欠けることなく、トンっと振る舞える並べ方が必ずあるはずなのです。が、それが判らない...。
幸い、石たちはまだ何も気が付いていないようでしたので、ただちにその並べ方を発見できさえすれば大事には至らないと思われます。...
その日は一日中、石たちの前にお尻をついて眺めておりましたが、結局わからずじまい。とりあえずいつもの順番のままにしておきました。
次の日の朝。
目を覚ますと同時に、石たちのことが気にかかりましたので...慌てて庭に飛び出ました。そして石たちを眺めてみますと、不思議なことに昨日までの違和感が全く見当たりません。どうしたことか...?昨日のは気のせいだったのかしら...?狐にでも摘まれたような気持ちで石たちの前にお尻をついて、眺め入っておりました。いくら眺めても、その並びは完璧であります。見事と言ってよいほどです...不思議なことに、それは今までより完璧に見えたのでした。
...なにはともあれ、並びは問題なく石たちも素晴らしい様子でしたので、私は昨日とうって変わって晴れ晴れとした気分になりまして、「いっちょ猫のやつと遊んでやりましょうか...」と、鼻唄まじりに猫の所へゆきました。
と、そこで私は血の気が引くのを見ました...。猫の横に石が一つ、転がっておったのであります。
2011.1.15