甲府にて
9月の甲府に三週間滞在し、毎日その土地の音に耳を澄まし、歩き、見て、録音し、演奏する...夕方の商店街で、毎日変わる17時のサイレンを生放送していた。
サウンド・アート運動ー『ヒビナリ』と題したこの運動は、甲府中心街のアーケード街に常設の31台のスピーカーを使って、田舎でよく耳にする17時のサイレンを五分間、毎日生放送するというもので、その内容は...創作楽器を中心とした即興と、その日に録音してきた「街の音」を合わせて演奏するもの。
街の録音場所は、毎日放送終了後すぐにダーツで決めた。50年前の古い甲府の地図を県立図書館で複製し、それを使って、約5~6Mだろうか...狙えないように商店街の道幅分だけ離れて投げた。
ある日のことだ、一組の親子が放送前の演奏場所にやってきた。若いお母さんと4~5才の少女である。見慣れない創作楽器に?マークの親子に、音を出しながら楽器の説明をした。母親は関心してくれているのか、何となく話を合わせているのか、微妙なとこではあったが、とりあえず熱心に頷いてはいた。少し戸惑った様子の少女は終始黙って音を聴いていた...
それから数日後のこと。
その時の少女が、友達を連れて子供二人だけでやってきた。また音を出してやっていると...突如その少女は私の楽器の説明を始めた。友達に教えてあげているのだ。その内容たるや、『この箱の中の「石」が大事なのだ...』とか、『この鉄の棒はテーブルに付けているから鳴るのだ...』とか、『そこの地図に刺さった場所の音をとってくるのだ...』などなど、関係者顔負けのものであった。
あの時、母親の影に隠れながら黙っていたその少女は、私の話のその全てを記憶していた。
その日の放送終了後、彼女たち二人にダーツを投げてもらい、全然刺さらない矢にきゃっきゃ言いながら繰り返して、ようやく地図に刺さった...その場所へ私はまた録音しに行くのだった。
2010.10.09