即興少年たち

起きて、珈琲淹れて、猫に餌やって、煙草巻いて、ぼーっと....ここまでは毎日同じ。

今日はきらっきらの秋晴れ。土曜日。
ぼっさぼさの長髪の隙間から煙草をくわえて、そこに転がっていたブコウスキーの小説をぱらぱら覗く。
キャス...セックスマシーン...意気地がない...ベゴニアの葉...バーテンダー...などの文字が飛び込むが何ともない。うむ、昨日も一昨日もなんか不調だ。自分が腐って見える日々。こういうのは実はよくある。いけない。

と、
ふと「ボールが投げたい...」と思った。運動したい、いやスポーツがしたいと。調子が悪くなると現れるいつもの欲求だが、今日はより本気だった。

押し入れの中にはグローブが二つとボールが一つある。が、キャッチボールは独りではできない。
どうにかしよう!その辺の子供に相手をして頂こう!と思い、わりと近くにあるグラウンド、大きなグラウンドだ。石切にぴったりの高くて景色のよいグラウンドだ。そこへ向かう。何年かぶりにランニングシューズを履いて、髪を結い、グローブを持って。


思えば、私は生っ粋の野球少年だった。小学2年から、肘の骨がドロドロになってしまった高1までの間、野球ばかりしていた。今ではその面影すらないが、いわゆるスポーツ少年だったのだ。高校にもスポーツ推薦で行った。が、果たして私は野球が好きだっただろうか?今だからはっきり判る。私はきっと野球を好きではなかった。なのにずっとやっていたから、こうして未だに残っているのだ。ある種のトラウマとして。
しかし今はどうだ?グローブ片手にわくわくしている。これは月日のせいなんかじゃない、単純に愉しみ方を今は知っているからだ。この気持ちであの頃に野球をできていたら、さぞ違っていたろう...


そうこうしているとグラウンドに着いた。おっ!野球してる。小学生が10人ほどでゆっる~い試合してる。
怪しまれないように遠くから少し観察。本当はすぐにでも混ざりたい、が、子供に敬遠されがちなこの身なり、注意が必要だし勇気も必要。
ゆっる~くチェンジのタイミングで近づいて、意を決して「グローブあるし、混ぜて~や!」と皆々さまに言ってみた。精いっぱいの元気さとフレンドリーなお兄さんで。それでも完全に引かれてしまった。しかし今日の私は一味ちがう!「ええやんええやん!やろうや!なあええ?」
と、
「俺はええで」
「俺も」
「俺も」
「じゃどっちチーム?」

入れてくれました。

そこからはものの5分で馴染んだ。普通に話して普通に参加して、ゆっる~い野球やりました。
総勢11人。みんな小学5年生で、野球部は一人も居ない集まり。もう本当にまとまりがなくて面白い。一応、試合のようだけどなかなか進まないし、サッカーボールも何個かあって、なんなら野球しながらサッカーもしてるし、軽いケンカもあるしで、凄い!この感じ。即興だわ。それもグダグダのやつ(笑)

途中で誰かの母が遠くに来たらしく、5~6人駆け寄って行き、中断。アイスキャンデーを引き下げて帰ってきた。私にも一本くれて、みんなで食べる。

「おっちゃん何歳なん?」

「何歳でしょう?」

「36!」
「俺、41!」
「いや以外とヒゲなかったら若いで、30くらいちゃう?」
「まあ20後半から30後半やろ?」
「俺、28!」

その間に必死で自分の歳を思い出し、
「25や!」
....一同、爆笑。
まあよい。20代で40と言われて、70代でも40と言われるに違いない。そう考えることにする。そもそも忘れているので問題ない。

「なんて呼んだらええ?」
「小学校のときのあだ名、何?」
「ロッチでええやん!」

「何?ロッチ?...ああ芸人の?髪長いからか?(笑)」

「ええやんロッチで(笑)」

「ああええよ~」

、、、。

「なあなあ、お兄ちゃんキャチャーして~?」

、、、決めといて、ロッチと呼ばれることは一度もなかった。


それから小一時間ほど野球らしきものは続いたし、「兄ちゃんめっちゃ上手いやん~!」と多少の株も上げた。

ふと気がつくと、あら不思議!ものの見事に野球はフェイドアウトし、サッカーがフェイドイン!クロスオーバーなこの展開力、これはマジで刺激的だった(笑)


この辺で私は帰ろうと思い、
「行くわ~!」

「うん!ばいばーい!」
「またなー」
...一同。


果たして私は野球したのか?サッカーしたのか?アイス食ったのか?
...間違いないのは、遊んだということ。それが全て。

11.7

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