凍土の感触
そういえば子供の頃、
まだ広島の田舎に住んでいた頃、
冬がとても愉しかった。
“遊び” は色々とあったが、今になって思い出深いのが2つ。
凍った土。つまり凍土の上をサクサク音を鳴らしながら歩くことと、
凍った蜘蛛の糸を指で壊して遊ぶこと。どちらもとにかく気持ち良かったのを覚えている。とてつもない快感が伴う遊びだった。
凍土の上を歩くのが何故あれほど気持ち良かったのか?
それは梱包用の、いわゆる“プチプチ” を束ねて一気にプチプチ鳴らす感覚に少しだけ似ている気もするが、それよりずっと良かった。やわらかい土ほど、凍ったときに良くなった。
凍った蜘蛛の糸を壊す遊び、
これは間違いなく一等愉しかった。
凍土の上に凍った糸があった場合でも、もう一目散に糸だった。だって友達とどちらが速く蜘蛛の巣を見つけるか、そしてどちらが速く壊すか、いつも競争していたくらいだ。もうそのくらい大好物だった。
昼になると壊せない。
夜では霜がおりず凍らない。
これはもっぱら朝の遊びだった。朝の贅沢だった。
衆知の通り、蜘蛛の糸は普段とてもやっかいだ。ひっかかると、プツリと切れることもなく伸びるし、まとわりつくし、不愉快だ。
確か地球上で最も強い繊維は蜘蛛の糸だと聞いたことがある。蜘蛛の糸が、鉛筆の芯ほどの太さになったとしたら、あのジャンボジェット機さえも簡単に捕まえられると。
事実は知らんが。
朝になると、それが指一本で簡単にサクサク壊せる。糸が指にまとわりつくこともない。糸が割れる瞬間の快感。大きな巣を見つけたときの喜び。
歓喜の叫び!もうとにかく走ったね。
目に入る巣は片っ端から壊した。10や20じゃきかないだろう。それが毎日だ。しかし次の朝には元通りに巣はあちらこちらに張られている。蜘蛛さん有難う。また壊すぜ。
冬の朝には我を忘れる。
無我夢中。
完全無欠。
何故か、“世界制覇” の四文字が頭をよぎる。凄い顔してたんだろなあ。
まさしく指一本での大自然との対話。そう考えると、この右人差し指にはスケールの大きなドラマを感じずにはいられない(笑)
今ではもっぱらギターの3弦を弾くためのこの指も、あの凍った蜘蛛の糸の感触を宿しているのだ。
しかし同時に、冬の終わり。
昨日までサクサク切れた蜘蛛の糸が、
指にまた引っ掻かった時の鈍い嫌悪感は、今でも残っている。
10.9