煙草の思ひ出

これは私が初めて家族の目の前で煙草を吸った時の話である。


私が煙草を初めて吸ったのは父の煙草だった。中1くらいの頃だったと思う。居間でくつろいでいた時、父が煙草に火を付けそれを灰皿に置いたまま、ウイスキーの水割りを作りに台所へ行った。その隙に私は煙草を手に取り、恐る恐る吸ってみたが、すぐにフーっとふかした。肺には入ってない。恐かったのだ。でも一応吸った!確かに口から煙が出た!(笑)
その時はそれだけで満足だった。


それから一年後くらいには、私は自分で煙草を買い、こっそりと吸うようになっていた。確か銘柄はPEACEだった。鳥のマークが格好よかったからだ。中学生だった私は学校帰りに、あらゆる隠れ場所に立ち寄り、煙草を一本吸ってから帰宅した。空き地の隅や病院の裏、時には山の中で。

そして、中3の大晦日のこと。
紅白も終わり、年越し蕎麦も食べて、私は、お先におやすみ~っと二階の自分の部屋に上がった。みんなは下の居間にいる。コートを羽織り、煙草を持って部屋の窓をこっそり開けて、そこから続いている屋根の上へ出た。
煙草に火を付けて、「あー寒い、でも冬の煙草は旨い。」とか確かよく言っていた。その時、背後に気配がして、窓の磨りガラスの向こうで影が動いた!ヤバいい!慌てて火を消して屋根の下のほうに投げ捨てた。窓が開けられ、そこには父と母と歳の離れた兄の3人がいた。3人って、今思うとそんなに来なくても(笑)
父が、「出しなさい。」私は黙って差し出す。それで終わりだった。叱られると思ったが、特になかった。
それが初めて煙草を見付かった日、新年早々の出来事。


そして、高1の時。学校で煙草が見つかってしまい停学になる。やってしまった、今度こそ怒られる。
学校まで母が迎えに来て、一通り先生から停学の説明を受けた後、一緒に家へ帰る。少し早めに帰ってきた父も加わり3人で居間に座り、話す。
うちの家庭は皆まじめである。だからその時の両親の対応は、私にとって意外なものだった。
「家で吸え。」

学校や外で吸うな、吸うなら家で、目の前で吸え。との事だった。
私は頷いた。


その晩。

「夕食の支度が出来たから降りてきなさーい!」
私は部屋から煙草を持って居間へ向かう。ポケットではなく、手に持って居間へ向かうのだ。不思議だった。
うちの家庭は皆、愛煙家である。父も兄も母も煙草を吸う。みな自分の食卓に自分の煙草を並べる。その日から私も自分の食卓に自分の煙草を並べる。みな違う銘柄の煙草だったから分かりやすい。
見ていないようで、絶対見てる!息子の煙草を見てる!(笑)


「いただきます。」
自然なようだけど、明らかに普段と違う空気で食事が始まった。
一人、一人と食事を終え、食後の一服へ入る。私は食べるのが遅く、いつも最後に食べ終わる。そしてようやく食べ終え、いよいよ初めて家族の目の前で煙草を吸う時が来た!煙草を吸っているのは知られていても、煙草を持っている所や、まして吸っている所など見せたことはない。これから、初めて目の前で煙草を吸うのだ。


...絶対見てる!みんな見てないふりしてるけど、絶対見てる!
...どうしよ。無茶苦茶恥ずかしい。煙草をくわえた姿を見せるのが本当に恥ずかしい!格好つけているみたいに見えないだろうか?でも、ここを通らねばならない。意を決して煙草をくわえた!火を付けて、煙を吸い込みゆっくりと吹かした...
やばい、すんごい気配がする。超見てる!!

すっごい空気の中、とてつもなく長い一本を味わった。


それから現在に至るまで、私は煙草を止めようとか禁煙しようとか思ったことが一度もない。

私は煙草が大好きである。

7.21

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